「子どもは親に似るもの」ごく当たり前のことですが、不思議といえば不思議です。
なぜある生きもから別の生き物が生まれることがないのでしよう?
昔は、「生き物の体の中で小人が指令を出している」とか「生き物の中にその生き物のミニュチュア版があって、それが大きくなって生まれてくる」というような、おとぎ話のようなさまざまな説がとなえられていました。
そんな、よくわからなかった遺伝の基本的な仕組みを明らかにした最初の人が「メンデルの法則」で有名なグレゴール・ヨハン・メンデル(1822~1884)です。
メンデルはえんどう豆を使って、特徴の異なる豆同士をかけあわせ、どのような豆ができるかの実験を繰り返しました。その結果、遺伝は遺伝子によって決まるということと、遺伝子が親から子へ受け渡されるルールを発見したのです。
その後、遺伝子はDNA(デオキシリボ核酸)という物質であることがわかり、遺伝の仕組みが解明されました。
遺伝子とは「遺伝の原因となる因子」で、「DNAという物質」であり、このDNAが、親から子へ受け渡される事で、遺伝という現象が起こるのです。
DNAは、動物でいえば母親からの卵子と父親からの精子が受精し、その受精卵が 細胞分裂してできた一つ一つの細胞中にある“設計図”、といえます。
そして2003年に、約15年もの歳月をかけて約32億塩基対からなるヒトゲノムの 全塩基配列の解読が完了しました。21世紀は「遺伝子の時代」といわれています。 私たちにとって遺伝子はますます身近なものになっていきているのです。
人の正常な細胞の核の中には2本1組となった23組46本の染色体があります。このうち、1組~22組目までは常染色体といい、男女とも変わりませんが、最後の23組目がXとYという記号のついた性染色体といって、(男性ではX染色体とY染色体、女性ではX染色体2本)これで男女の別ができます。そして、23組すべての染色体について、2本1組のうちの片方が父親から、もう片方が母親から受け継いだものです。
染色体はDNA(デオキシリボ核酸)という物質からできていて、23組目の染色体の中には、32,615個の遺伝子が存在すると考えられています。
そのうち、生物の全遺伝子情報が書き込まれている1セットの文字列のことをゲノムといいます。
ゲノムの構造は、リン酸とデオキシリボース(糖)のペアに、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)という4種類の塩基のいずれか一つがくっついた物質(ヌクレオチド)が連なったものです。
この4種類の塩基がいわば遺伝子の設計図の“文字”にあたり、これがどのように並んでいるかによって、遺伝情報という“本”が表されるというわけです。
ヒトの場合、23組の染色体全体で4種類の塩基が約32億対の並んでいることから、その情報量は想像もつかないほど膨大であることがわかります。
ちなみに、この塩基の総数は、実はサルやマウスも人間も同程度、塩基配列も似ています。
同じヒト(ホモ・サピエンス)同士であれば、その塩基配列は、互いにほとんど同じです。
しかし、よく調べてみると、個人間でごくわずかな違いがあることが長年の研究でわかってきました。
“ごくわずかな違い”というのがどのくらいかというと、約1000塩基に1個の割合。
比率でいうと、99.9%は各個人間で共通しており、残る0.1%が違うわけです。
この、たった0.1%が、私たちが他人を見たときに直観的に認識する顔つきやスタイルの違い、運動能力の違い、性格の違いなどを生み出します。
さらには、特定の疾患に対する感受性(なりやすさ)や、その治療に使う薬物などに対する反応性(効果、副作用発現、薬物代謝など)の個人差を生み出しているのです。
専門的には、この0.1%の部分が重大な疾患などの変化としては現れず(サイレント)、なおかつ人口中1%以上の頻度で存在しているものを「遺伝子多型(polymorphism)」と呼んでいます。
一方、その0.1%が重大な疾患発症の決定的な原因になる場合には突然変異(mutation)と呼んで区別されます。
遺伝子多型の身近な例として、ABO式血液型があります。 最も少ないABの人でも約10%いますし、輸血や献血をする場合を除けば社会生活に全く影響が なく、生きて行く上にはどのタイプでも差はありません。
この「遺伝子多型」は、両親からの遺伝子の受け継ぎ方によって3つのパターンに分けられます。
ヒトの遺伝子は父親と母親のそれぞれを受け継いでいるので、2本存在しています(対立遺伝子といいます)。この内訳によって、「変異ホモ型」「ヘテロ型」「正常ホモ型」の3パターンができるのです。
病気に例えると、「変異ホモ型」は、父親と母親の両方から病気になりやすい遺伝子(疾患感受性遺伝子といいます)を引き継いだ場合です。
一方、「ヘテロ型」は片方の親からのみこの疾患感受性遺伝子を引き継いだ場合このように呼びます。
そして、両方の親から疾患感受性遺伝子を引き継がなかった場合は「正常ホモ型」といいます。
この3つのパターンを、病気のなりやすさや重症度で比較すると、次のようになります。
ある集団において、疾患感受性遺伝子を引き継いだ変異ホモ型、ヘテロ型、および疾患感受性遺伝子を引き継がなかった正常ホモ型について、病状の重症度を比較してみると、多くは疾患感受性遺伝子を引き継いだ変異ホモ型が最も発病しやすい傾向にあります。
一方、片方のみしか引き継がなかったヘテロ型では、変異ホモ型に比べ発病する危険性が低く、発病しても病状が軽い傾向にあります。
このような関係を遺伝子の用量効果(Gene doseeffect)といいます。
また、ある疾患の危険因子となる生活習慣(例えば、糖尿病における過食や肥満、骨粗しょう症における低カルシウム摂取など)に強く、長くさらされた場合、疾患感受性遺伝子を引き継いだ変異ホモ型では、引き継がなかった正常ホモ型に比べ、やはり重篤となりやすい傾向にあります。
ある疾患にかかる確率は、その個人の引き継いだ疾患感受性遺伝子の量および、危険因子とどのくらい深く関わったかにより決定されるといえます。
人の遺伝子は、父親と母親のそれを受け継いでいるので、2本存在しています(対立遺伝子という)。
父親と母親の両方から変異型遺伝子を引き継ぎ対立遺伝子の両方が変異の場合、これを変異ホモ型と呼びます。一方の親から変異ホモ型遺伝子を、もう一方の親から正常ホモ型遺伝子を引き継ぎ、対立遺伝子の片方が変異型の場合、これをヘテロ型と呼びます。
また、両方から正常型遺伝子を引き継ぎ対立遺伝子の両方が正常型の場合、これを正常ホモ型と呼びます。